沈まない船はない
1912年4月15日02:20 タイタニック号は北大西洋に沈んだ。
不沈といわれたタイタニックは14日の23:40に氷山に衝突してから2時間40分で海中に没していった。
100年近く前のこの悲劇はすでに書籍、映画などで様々な原因が問われている。姉妹船の事故修理のための、進水の遅延。サザンプトン港からの1時間の出港の遅れ。大西洋航路のスピード競争のために高スピードを継続したこと。双眼鏡のない見張り台。無風のため鏡のような海面で氷山の周囲に白波が立たず、見つけにくかったこと。無線機の故障。6回に及ぶ他船からの氷山の無線情報を無視したこと。etc.
しかしながら、船会社にとってもっとも大きな選択は救命ボートの積載数であった。タイタニックが氷山と衝突したとしても沈没まで2時間40分の時間があった。充分な救命ボートさえあれば、大半の乗員は救われたはずである。
しかしながら、2,207名の乗員・乗客に対して1,178名分の救命ボートしかなかったのだ。建造中に造船会社は救命ボートを2倍積める構造であることから、増設を提案したが、船主であるホワイトスター汽船はコストの問題からそれを却下したのである。それはタイタニックが不沈であるという確信と商務省の安全基準には合致しているという2つの根拠から来ていた。
当時4月15日の北大西洋の水温は摂氏マイナス2度。なにしろ、巨大な氷山が浮いているのだ。その水中に浮いていれば、人間は20分で低温症となり、気を失って死亡する。タイタニックの最大搭乗員数は3,000名と言われていたから、不沈でなければ2,000名は死亡する計算であったということになる。
不沈という信頼(教義にも似た)はどこからきたのだろう。太平洋戦争中に撃沈された日本の戦艦大和も不沈戦艦と言われていたようだ。タイタニックも誰もが沈まないと思っていたらしい。全長269m、排水量4万5千トン、大きければ沈まないのか?そうではない、沈んで欲しくないという利害関係者の願望とそれを盲目的に信じるフォロワーの感情ではないか。船に乗る際に救命ボートの定員数と乗客数を事前に確認する乗客がいるだろうか?
沈まない船はない。落ちない飛行機もない。ぶつからない自動車はない。問題はいつ自分がそのような目に遭遇するかだ。誰もそんな事態にはなりたくないと思っている。しかし、船や飛行機に乗らざるを得ない場合がある。その際は自身の判断に従って選択する他はない。
それは正しいとか誤りといった次元の問題ではないのだ。後知恵であればなんとでも言える。
タイタニックにのらなくても、他の事故で亡くなるかもしれない。有名なJ・P・モルガンはタイタニックへ乗船する予定であったが、直前にインフルエンザに罹り、乗らずに命拾いした。鉄道王のヴァンダービルドはタイタニックの乗船を直前にキャンセルしたが、3年後にUボートに雷撃されたルシタニア号にて命を落としたという。
こう書いてしまうと、選択によって自らの将来をコントロールできないではないかと言われそうであるが、そういう場合もある。いや、そういう場合も少なくないと言わざるを得ない。
選択をとことん追求した結果はサイコロ。サイコロやギャンブルが人を虜にするのは選択に疲れている証左かもしれない。
サイコロの目に掛けるのも一つの選択。
それにしても100年にわたって語り継がれるタイタニックの物語。「不沈 タイタニック」は記録が詳細で充実してる。「Inside the Titanic 」は英語版のリアルな絵本。船内まで詳細に図解されている。選択を考える際に多くの指針を与えてくれる。
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