新聞にデフレという字が載らない日はない。ニューエコノミーによる需要不足、または供給過剰という論調が多い。マスコミは広告の出稿者に遠慮していいにくいかもしれない。しかし、消費者側から売れない理由を簡単にいうと、無理しても買いたい商品がないということではないだろうか。自動車が売れないのは買い換え需要からみると車自体が壊れなくなり、新車に乗り換えるだけの魅力がないからである。新規購入需要については、若者が車に乗る効用よりは携帯など他の商品の効用を高く評価しているからに過ぎない。売れない理由を経済の問題であると責任転嫁するとますます傷が深くなるであろう。住宅も同様。従来の主力商品は十分に顧客を満足させており、持続的なイノベーションでは顧客に購買意欲を持たせられない状況を示している。THE INNOVATOR’S DILEMMA
When new technologies cause great firms to fall
By CLAYTON M. CHRISTENSEN
購買階層には顧客が商品を選択する段階を機能→信頼性→利便性→価格の四段階としているが、今の売れない商品はほとんどは4段階目の価格のレベルになっている。そのレベルの勝負では中国に勝つのは難しい。
イノベーションのジレンマでは、主力商品における持続的なイノベーションから脱却できない理由を経営者の個人的な能力の問題ではなく、所期のものとして分析している。その中で、破壊的イノベーションの着眼点を技術ではなく、マーケットの選定であるとしている点が慧眼である。
今の顧客のニーズ・主力製品の立ち位置を違った観点から見る習慣づけが必要だ。
主戦場は常に動いている。最初はニッチな市場だが、マーケットが学習すると市場規模が拡大し、結果としてそのマーケットだけでなく、参入メーカーは上位市場にも参入してくる。
ケースとして進歩の早いハードディスク業界が中心に説明されている。ハードディスクの性能の向上はホストコンピューター、ミニコンを主要顧客とした持続的なイノベーションであるのに対し、ハードディスクの小型化はホストコンピューターにはニーズがなかった。しかし、小型化は性能が劣るものの、デスクトップPCやノート型PCといった新たなマーケットを創造したのである。マーケットリサーチに際してIBMのようなホストの顧客にニーズを聞いても仕方ないといいう点が重要だ。
もう一つのケース。トランジスタの特許権の使用交渉にATTに向かったSONYの盛田氏にATT側が使用目的を聞いたところ、携帯ラジオに使うとの回答を理解できなかったらしい。真空管を使用した据え置き型ラジオの性能がよかったからであり、性能が多少落ちても屋外でラジオを使用するニーズ(マーケット)に気付かなかったのである。ウオークマンもその延長線上だったのだが、SONY以外の企業は気付かなかった。マーケットが先で、商品は後であるとの好例。
さらに国内における生命保険のケース。医療保険は今では当たり前の商品であり、販売件数も生命保険の中で最大となっている。従来の国内大手生保会社は死亡保障の特約として販売していたものだ。ここにおいても、顧客のニーズを大きく見誤ったのである。日本は国民皆保険の健康保険が整備されており、治療費の自己負担は小さいものだ。専門家はそう考えておまけで医療保険を特約として販売していた。事実上販売していなかった。そこへ外資系の生保会社が参入してがん保険、医療保険を死亡保障とは切り離して売りまくった。現在では新規契約の件数では医療保険・がん保険を販売する外資系生保が第一位だ。今その外資系企業は第三分野といわれる医療・がん保険の販売から大手生保の牙城であった死亡保障、年金市場を大きく浸食している。
他にも次のような事例が載っている。
・ プリンター:レーザーからインクジェットへ。HPが両部門に競争させて成功した事例。
・ オートバイ:ホンダ、ヤマハ、カワサキなどの日本社が大型ツーリング車ではなく、オフロードという新ジャンルを創造してから大型車マーケットに展開した事例
・ インシュリン:イーライ・リリーが高純度のインシュリンを開発したが売れず、ノボ社が純度ではなく、簡単にインシュリンを注射できるペン型注射器によりシェアを拡大した事例
経営者における破壊的イノベーションとの融和方法として次の4点を上げている。
① 企業は顧客と投資家に資源配分を依存しており、主力商品から破壊的イノベーションへの資源投入のシフトを自身では決められない。また、破壊的イノベーションは一時的に収益が低下するため収益性の観点からも認めにくい。
スピンアウトを含めた別組織を立ち上げないと破壊的イノベーションの対応はできな
いという点が最重要だ。
② 破壊的イノベーションが開拓する現状の小市場では大企業の収益ニーズを満足させられない。市場が成熟するまで待つ戦略もあるが、手遅れになる可能性あり。
③ 存在しない市場は分析できない。市場調査、コンサルタントの活用は意味がない。
顧客も効用を知らないから。そこで、市場は試行錯誤の繰り返しの結果で形成できる
と理解した上で発見指向・学習のための計画が必要。ただし、失敗に対する再投資に
備えて資源投入は制限的に。
④ 技術の供給が市場の需要と等しいとは限らない。
破壊的イノベーションは短期的には小市場で購入され、主力商品のより性能が劣るケースが少なくないが、その後に主力市場に参入し、大きく発展する可能性があることを想定しておかなければならない。
2000年に書かれたものであるが、最後にケースとしてガソリンエンジンから電気自動車へのシフトを取り上げている。ここで著者はバッテリー容量に限界のある現在において、ガソリン車の主力マーケットに電気自動車を投入しようとしているメーカーに警弔をならしている。順番は技術が先ではなく、マーケットの選択なのだと
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