顧客というより「個」客
単身赴任をしていると気をつけていても時々必要な商品を切らすことがある。
たまに家に直帰して冷蔵庫を開けてみるとビールがない!
あるいは、アルコールはふんだんにあるが、つまみがない!
土曜日に洗濯をしようと洗濯機に電源のボタンを押して水が勢いよく流れ込むが、洗剤を入れようとすると、それがない!........
まさにこんな時に玄関のチャイムが鳴って、「冷えたビールはいかがでしょうか?」とか「洗濯用洗剤がご入用では?」などとセールスマンがやって来たら、きっとそのセールスマンを抱きしめたくなるだろう。
片や、昼食後に満腹でお腹が苦しいときに、大きな饅頭をいただいた際のありがとうの笑顔は多少歪んでいるかもしれない。ましてや早く食べることをすすめられた折には
タイミングが重要なのだ。
ウォルマートは全米最大の小売業だ。
自社の在庫情報をメーカーに公開することにより、ウォルマート自身が在庫の管理と発注をしなくとも機会損失が発生しないようにしている。おかげでP&Gはその洗濯用洗剤タイドをウォルマート1社で全米の洗濯用洗剤のシェアの実に25%を販売しているそうだ。
もし、我が家の冷蔵庫やその他必要なものの在庫がなくなった際に自動的に補充してくれるというのであれば、喜んでその情報を販売業者に公開する。もっとも、我が家はウォルマートではないので相手にされないかもしれないが
一昔前にリレーションシップバンキングという言葉が金融機関で流行った。
これはバブル崩壊後に不良債権を大量に抱えた金融機関が不良債権の査定をする際に、顧客とのリレーションを深めることにより、より正確なリスク管理を行うというのが目的だった、一方で、借り入れ側も正確な情報を提供するとより有利な条件で融資が受けられるということも言われていた。
簡単に言うと、お互いを信頼するとお互いのためになるということ。
一般的な商道徳からするとそのとおりなのだが、相手を信用できるかが先決問題となる。相手に金庫の在処を教えて夜中に押し入られてはたまらない。
バブルを経て金融機関の信用が地に落ち、不良債権で苦しんでいる時に打ち出されたお上からの通達であった。報告の提出まで求めて終結したようであるが、あまり成果が上がったという話は聞かない。おそらく、お互い信用しているふりをしている状態が少なくなく、かえって疑心暗鬼が深まったのではないかと思われる。まともに情報を金融機関に開示すると貸金の返済を求めれたり、追加融資を断られたりしたわけだ。正直者が馬鹿を見ると思われたのであろう。
健康もそうかもしれない。定期的に健康診断をしていると、様々な病気の症状が重くなる前に対処できる可能性がある。
元気でなんともないのに健康診断をするのは妙だ。胃カメラで痛くもない腹を探られるというが最たるものだ。
しかし、自ら自分の情報を他人に開示して万一に備えるという例は決して少なくない。自分では判断できない、あるいは時間がなくて対応できない、あるいは処置できないことは他人に任せるしかない。
あるいは、自分でできるとしても、他人がよりうまく、低コストでやってくれるのであれば任せた方がよいと言う場合もあるだろう。
ウォルマートから在庫管理を任されるP&Gと、健康診断で腹の中まで見せてもらえるドクターは商品販売の以前の段階で自らの商品が購入されることがほぼ期待できる。
それは当該顧客が商品を必要とするタイミングを把握する仕組みを有しているからだ。
P&Gは在庫管理をしているので勝手に納品できるし、健康診断した医者は一定割合で再検診で稼ぐことができ、場合によっては治療をすることができる。
購入タイミングの把握に対する投資の選択が今後の企業の命運を左右する。
顧客から情報を提供される企業とされない企業の差は顧客とのリレーションシップの有無である。
しかし、リレーションシップを獲得できる企業とそうでない企業の差は何であろうか。
リレーションシップのスタートは顧客の情報であり、その有無あるいは深さ。
ONE TO ONE MARKETINGは顧客との恊働を謳ったパイオニア。15年も昔に書かれたは思えない内容。
15年も経過しても世の中に浸透していないのは、知ることと実行できることの違いだ。イノベーションのジレンマを再認識できる。
ところが、、顧客の情報を入手してリレーションシップを築くのは意外と簡単なのかもしれない。
「愛情」の反対語は?
「無関心」だという
商品の販売というトランザクションに注目するのではなく、顧客に関心を持てばよい。
関心をもつと相手のことを質問したくなる。根堀、葉堀聞いて行って記録する。そして記録を頻繁に見返す。
すると、そこに「個」客の解決したい、片付けたい用事が見えてくる。
そして、「個」客が言い出す前にこちらからいうのだ。
「冷えたビールはいかがでしょうか?」
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