Amazon.comを訪れると、最上段に「こんにちわ、○○さん おすすめ商品があります」とある。
最近私がチェックした商品を思い出させてくれて、さらにそれと同じテーマの商品がならんでいる。さらに、おすすめ商品をクリックすると私が買いたいとAmazon.comが推定している商品がならんでいる。今もそれを見ながら一冊注文してしまった。
このようにAmazon.comは私とすでに共同作業を行っている。私の読みたい本を中心に私が本を探す手間を省いてくれている。今までの購買履歴から私の読書のプロセス、指向を読み取って判断をしているのだ。私はAmazon.comで本を購入することによって、おすすめの提案を受けることを許容していることになる。
かつて勝間和代氏の本を読んでいる頃、彼女が著書の中で購読をすすめる勝間本といわれる本がずらりと並んでいた。実際のところ、私が次に読みたいと思う本は同じ著者のものか、または、今読んでいた本の中に取り上げられていた文献もしくは人物に関するものである場合が多い。その意味ではAmazon.comがユーザーにおすすめを作成するアルゴリズムはさほど難しいものではないかもしれない。
セス・ゴーディンは見込み客に自らおすすめの提案を受け入れることに関して手を挙げさせなければならないとしている。それを”パーミッション・マーケティング”と称している。
当然、時間がなくて売り手の商品に注意をまわすことが困難な見込み客に手を挙げさせるためにはそれなりのインセンティブが必要だ。コストのかかるそのインセンティブを顧客の生涯利益を計算した上で提供する。最も価値があるのは顧客へのアクセス・キーである顧客の”注意”であるという。
商品の売り込みの前に売り込みをすることについてその許諾(パーミッション)を取り付けるという概念は当たり前のようで、できている売り手は少ないだろう。そして許諾を受けずに売り込もうとしていかに失敗していることか。
そのインセンティブによって許諾をしたユーザーがはじめて提案を待っていてくれる状態になる。その際にリレーションシップを確立できれば「期待され、パーソナルで適切な」提案をすることができる。
1908年にP&Gはラードにかわる食用オイルとして綿実油であるクリスコを発売した。さすがP&Gと思われるのは、製品の売り込みをする前にクリスコを使った料理本を作成して大量に配布したのである。製品のPRではなく、料理本のPRをしたのである。そしてクリスコはP&Gの中核商品として成長していった。
一方、Webの伸張は顧客とのリレーションを深めるツールとして、コミュニケーションのコストを劇的に低下させている。これを有効に使うか否かが許諾を取り付けられるか否かのポイントになるだろう。
Amazon.comは多くのユーザーからパーミッションを取り付けた。Kindleを発売して出版社を中抜きする勢いだ。作者が電子出版すれば、印刷費、紙代、物流、出版社と本屋のマージンなどがいらなくなる。本棚も不要になる。
ユーザーからパーミッションを取り付けた企業は”門番”となって競合をユーザーに近づけないようにしてしまうパワーを持つようになる。問題はその”門番”に誰がなるかだ。
本書における許諾を受けるためのインセンティブはFreeに書かれているものとほぼ同じと言える。しかし、本書の功績は顧客を共同作業者にする許諾という心理的なアクセスキーにフォーカスして明らかにした点だろう。
あらためて、セールスに必要なもう一つのステップに気づかされた。売り込む前に許諾を取り付けるステップを選択する必要を。
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