本書を読んでも科学的な点はすこしも理解できなかった。しかし、物事のとらえ方は自然科学でもそうなのかと参考になった。
ホーキングは第三章「科学理論の本質」において、各論に入る前にその定義を明らかにしている。ホーキングは、理論は仮説であり、人間の頭の中だけの存在にすぎず、現実性は持っていない。とする。確かに宇宙ができた瞬間を見た人間はいないし、銀河系を外から確認したことがある人もいないのだ。すべて仮説にすぎない。なんとなく、そんなものだと思っている人は多いが、それを確実であると証明することはできない。
何事も同じだと思うが、このような謙虚なスタンスでことに臨むことが、偉大な発見につながる前提条件として必要なのだろう。
さらに、良くできた理論の要件を2つ上げている。
1.広範囲にわたる事象に関して少しの変数によって正確に表現できること
2.将来に関して明確な予測ができること。
そして、科学の最終目標は全宇宙の事象をすべて説明できる一つの理論を見つけることであるとしている。
人間の生涯も宇宙の一部だと考えることができる。宇宙や人生において発生する実に様々な事象に対してその事象ごとに内容を理解して個別に対処することは限られた時間と能力のために不可能と言う他はない。そこで、ある程度大くくりの対処法をいくつか覚えておいて、それを使う、あるいは多少応用せざるを得ない。だからこそ、少しの変数で広範囲に対応できる理論がありがたいのだ。事象ごとに異なる多くの変数は一人の人間には扱いきれないからだ。
宇宙に比べれば非常に小さい人の人生はそれはそれで小さい宇宙と見ることもできるだろう。
では、人生において少ない変数で広範囲に応用できるよくできた理論というのはどういうものなのであろうか.....代表的な理論は宗教であったのであろう。南無阿弥陀仏を唱えれば極楽浄土へ行けるなどというのは、シンプルであり、将来の予測ができる。しかし、実現について証明することは不可能だ。さらに、信じることが前提となる。
社会的な規範もその理論の一つかもしれない。モノを盗んではいけない、年長者を敬う、人には親切にする、などは実にシンプルな理論だ。
ビックバンから宇宙が始まって地球という惑星が構成され、生物が生まれた。その後、その地球に人類が出現し、今我々がいる。宇宙の起源や今後の宇宙の姿がどうであろうと我々の日常生活には関係ないかもしれない。しかし、それらに無関心でいられないのが人間の性であり、一見浮き世と関係がないと思われる事象に対する人間の飽くなき好奇心が人類の発展を支えてきたのだ。我々自身が宇宙の一部であるという視点を持って、時々夜空の星でも見てみるのもいい。
浮き世から離れたようなところを見ることでシンプルで応用の効く理論に気づくかもしれない。
コメント