「生命保険入門(新版)」を読んでみました。著者はライフネット生命社長の出口治明氏。
入門とありますが、この一冊で生命保険の課題と今後のあるべき姿を説得力のあるデータの裏付けのもとに提示しています。
ご自身の生命保険の購入・見直しを考えている方は、一度本書を読んだ上で、セールスパーソンと面談したらどうでしょうか。
現状についての記述はほぼ私の実感に合致しますが、あらためてデータを見せつけられると、うならざるを得ません。
聞いてはいましたが、保険料が欧米の2〜3倍という状態(P.64)である点と、米国はすでにTerm Warと呼ばれた定期保険の価格競争で保険料が半減していること。日本においても保険料競争は始まっていますが、これから本格化していくのでしょうか。
印象に残った2点
第一は、損保型の商品の活用です。その一つが就業不能保険。この保険は病気やけがで就業ができなくなった際に失われる所得を保障するもので、損保業界では以前より長期所得補償保険として販売されていたものです。しかし、その販売件数は大きなものではありませんでした。65歳までの男性であれば、死亡するリスクより90日以上就業不能になるリスクの方が高いそうです。(P.237米国のデータ)
損保型商品の二つ目は実損填補型の医療保険です。これも医療費用保険としてかつて損保業界が販売していたものです。健康保険を前提に自己負担分を実費で負担する保険です。
ここに来て損保と生保業界のいいとこ取りが実現しそうな雰囲気です。
第二は、今後の理想的な保険の作り方としてオープン・アーキテクチャーを提言しています。
様々な工業製品の部品が高度に標準化されていることは周知の通りです。ナットやボルトは基本的にJIS規格にそっており、規格に合わないものは流通しません。だから、一つ一つ定規で大きさを測ることなく同じ部品が異なるメーカーで使用できます。野菜の大きさや形も出荷のために基準があるようですね。
一方、保険商品は保険会社別に全部違います。たとえば、保障内容、支払い日数など保障内容の違い、保険料の違い、アンダーライティングの違い、システム・事務処理の違いなど。大きくは違いませんが、細かく違うのです。だから、組み合わせて販売あるいは購入しようとするとひどく煩雑です。
これは、強力に垂直統合されている保険会社をメーカーなみに水平分業にしてもよいのではないかという提案です。これには強力な部品メーカーの出現が必要だと思います。出てくるとすれば、保険業界以外からなのではないでしょうか。
本書を通じて著者がライフネット生命を通じてご自身の理想を着々と具体化されていることが確認できました。考えたことを実現できる。すばらしいことです。
オープン・アーキテクチャー化以外にも同業社が競争するだけではなく、協力してより大きな価値を生み出していく分野があるのではないでしょうか。そこにあらたなサービスの鍵があるかもしれません。
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