「木馬を城内に引き入れたのは、宿命ではなく、自由な選択だった。伝説中の登場人物の一人としての運命は、人間一人一人が自分に対して抱いている期待の成就を現している。」
聖書には、神が人間を作ったと書いてあるらしいのです。
世の中には人間の想像を超えるコトがあまりにもに多く発生するので、その原因をどこかに求めなければなりません。
そこで、人間が説明できないことを知っているという「神」というものを創造することで、「神のみぞ知る」という代償措置で心の平衡を得ているのだと私は考えています。
最近の原発事故をみていて、「オデッセイア」を思い出しました。
ホメロスはトロイ戦争を全てを「イーリアス」で描きませんでした。トロイ滅亡後の「オデッセイア」で追想的にその滅亡を短く語っているだけです。
トロイが滅亡する原因となった有名なトロイの木馬の話なのです。
10年近くトロイを攻め続けていたミケーネ(ギリシャ)軍が、ある日突然海岸から姿を消しました。
そして、海岸の宿営地に大きな木馬が取り残されていました。その木馬にはギリシャ軍のオデッセウスとその部下が潜んでいたのです。
トロイ人の間では、その木馬をトロイの城内に引き入れるか否かで大きく意見が分かれました。
戦利品として持ち込むべきだとする意見と、敵兵が潜んでいるから馬の腹を明けて中を確認するか、海岸で焼き払ってしまえという二つの意見です。
木馬は罠であり、決して木馬を城内に入れてはならないと、強硬に主張したのはラオコーンという神官でした。
民衆はラオコーンの意見に賛成し、ほぼ収束したかに見えました。
しかし、ラオコーンは、二人の息子とともに、突然現れた大蛇に絞め殺されてしまいます。
(左はラオコーン像)
民衆はラオコーンが大蛇に絞め殺されたことを、神のたたりだとして、意見を翻し、木馬を城内へ引いて行ってしまったのです。
その夜、トロイの城内は戦勝の宴で飲めや歌えの大宴会でした。
オデッセウスとその部下は、城内に引き入れてもらった木馬から降りて、城門を開き、ギリシャ軍を率いれたのです。
その後のことは、ご存じのとおり、油断していたトロイは不意を突かれ、大半の男は殺され、女は犯され、奴隷とされてついにトロイは滅びたのです。
ここで、単純な疑問なのですが、なぜ、トロイの民は、木馬の中を検めようとすらしなかったのでしょうか?
そうすれば、オデッセウスとその部下は一網打尽で、再び、ギリシャ軍が戻ってきても、城門を固く閉ざせば、今まで通り、戦えたはずです。
おそらく、理屈よりも感情の方が勝ってしまった。10年近くも続いた戦争が終わったのだと信じたかったのではないでしょうか。
だから、ギリシャ軍が潜んでいると考えたくもなかった。
バーバラ・W・ダックマンは「愚行の世界史」の中で、こう述べています。
「木馬を城内に引き入れたのは、宿命ではなく、自由な選択だった。伝説中の登場人物の一人としての運命は、人間一人一人が自分に対して抱いている期待の成就を現している。」
御前崎にある浜岡原発は停止を命ぜられました。
しかし、その他の原発は今後も運転する方向だとされています。
そこで、福島原発は世界中の発電に対するトロイの木馬だったのではないかと思ったのです。
日本で大きな地震があって、原発のメルトダウンが発生し、周辺地域に壊滅的な打撃を与えました。
当事者がこう考えたいとしたら、どうでしょうか。
時間が経過すれば、原子炉の冷却化がすすんで、福島は解決する?人の噂も七十五日?
政府も電力会社も産業界も、(今回の)原子力の事故は終わって、今後は同じようなことは起こらないと信じたいのでしょう。その気持ちは分かりますが、それでいいとは...
さらには、当事者として、原発を推進してきた埋没費用の影響は避けられないでしょう。
だから、木馬(原発)を引き入れてしまう。原発の稼働を継続してしまう。
しかし、今は、ギリシャ軍が海岸から去ったのと同じ状況なのです。
福島の海岸にも木馬が見えるかもしれません。
また、オデッセウスが出てきます。そのタイミングは、次の地震か、将来のテロかはわかりません。
木馬を焼いてしまえと言ったラオコーンは大蛇に殺されてしまいます。
今の日本と世界において、大蛇は誰なのでしょう???
経済産業省?電力会社?原発の製造メーカー?電力を使う産業界?夏にエアコンを使いたい国民?
トロイのようになるかもしれません。(もちろん、ならないかもしれませんが)
そのリスクを取るか否かも自由であるところが、恐ろしいですね。
一つ考慮した方がいいと思うのは、人間が自然をコントロールしているのではなく、人間が自然の一部であり、むしろ、コントロールされているのだということ。
ですから、地震などの自然災害の規模を想定できると考える方が、どうかしています。
それは驕りです。今回の震災を想定外と言う人多いことからも自明のことです。
この問題は福島を見てもリスクが巨大なので、神のみぞ知るということでは済まされません。
今の日本には多少電力が足りない生活もいいかもしれません。
再度同じような原発事故が起こることに比べると
それは、新たな進歩の始まりだと思います。
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