「プロセスを簡素化することで、微に至る品質管理が可能になった。
1954年、それを初めて目の当たりにしたとき、私は、ニュートンの頭に「ジャガイモ」が落ちてきたかのような衝撃を受けたものである。」
GRINDING IT OUT:THE MAKING OF MCDONALDS
by RAY KROC
McDonald'sの歴史はマクドナルド兄弟が1940年に創業したカーホップのドライブインに始った。この米国本社のHPには、マクドナルド兄弟が創業した当初の八角形のレストランと食事を運ぶ二人の美しい女性が写っている。カーホップとは車で駐車場まで行くとかわいい女の子が注文を取り、食事を車まで持ってくれるというタイプのドライブインだそうで、米国ではかなりはやったようだ。1940年に車で食事に出かける消費者にアメリカの豊かさを感じるし、八角形の店舗とカーホップというスタイルを採用したマクドナルド兄弟の創意に思わずうなってしまった。マクドナルド兄弟はカーホップ形式の売り上げに限界を感じて1948年にテイクアウトの店に店舗形態を変更したところ、それが大当たりした。
レイ・クロックは1954年(彼が52歳の時)にマクドナルド兄弟の店を見に行っている。当時彼はミルクセーキを作るマルチ・ミキサーという1台で同時に5つのミルクセーキを作れるマシンを販売する事業をしていた。マクドナルド兄弟がそのマシンを8台も使っているという噂を聞きつけて見に行ったという。8台使用しているということは同時に40個のミルクセーキを売っていることになる。
当時のマクドナルド兄弟の店のメニューは非常にシンプルであった。ハンバーガーはハンバーガー(15セント)とチーズバーガー(19セント)の2種類。フライドポテト(15セント)、ソフトドリンク(10セント)、ミルクシェイク(20セント)そしてコーヒー(5セント)だけだった。それなのに開店前から長蛇の行列。清潔な店舗、従業員にも感銘を受けている。
現在のマクドナルドの社是であるQSCV(Quality・Service・Cleanliness・Value)がすでにそこにあったのである。そこで「私は、ニュートンの頭に「ジャガイモ」が落ちてきたかのような衝撃を受けたものである。」となったのである。
マクドナルド兄弟のシステムをさらにフランチャイズシステムに載せたのがレイ・クロックだった。しかし、最初はマルチ・ミキサーの売り上げ増を狙って行ったのだ。そのうちに、ハンバーガーを売りたくなった。まさにセレンディピティ。
おもしろいのはレイ・クロックがメニューの中でほとんどハンバーガーについて触れていない点だ。むしろ、フライドポテトにかなりのウエイトをかけている。子供はマックのフライドポテトが大好きだ。子供はハンバーガーが目当てではない。フライドポテトとシェイクが目当てだ。子供にせがまれて親が家族全員でマックに来てもらうことが狙いだ。思い起こしてみると、私の二人の娘がまだ小さい頃、マクドナルドに連れて行ってカウンターの前に立つと、真っ先に「ポテト!」と叫んでいたものだ。
ハンバーガーは差別化しにくい商品ではないだろうか。パテは100%ビーフ。バンズは地元のパン屋から仕入れ、ピクルスとケチャップをつけるというシンプルな料理だから、大して違いがないような気がする。それに対してポテトは調理法によって味に違いが出るらしい。レイ・クロックもシカゴのフランチャイズ1号店でポテトを揚げてもマクドナルド兄弟のような味にするのに四苦八苦する姿が描かれている。
何で勝負するかは、必ずしもメイン商品とは限らない。差別化可能かつ顧客にわかりやすいポイントをUSP(Unique Selling Proposition)にするべきだろう。
「まず、細部を十分に検討し、完成させてから全体像に取りかかった。私にとってはこちらの方がはるかに柔軟性に富んだアプローチだったのだ。」
「私は細部を重視する。事業の成功を目指すならば、ビジネスにおけるすべての基本を遂行しなくてはいけない。」
シンプルな事業構造、プロセスでなければ、細部までのこだわりはできなかっただろう。
原題のgrind it out は肉を挽く(ハンバーグ)という意味もあるが、機械的に作り出すというようにも取れる。プロセスを簡素化することと、フランチャイズ制により、そのような意味を表したかったのだろうか、それともつらく単調な努力の継続の上に成功があるということがいいたかったのであろうか。
彼は最後にこう結んでいる。
「我々が進歩するためには、個人でもチームでもパイオニア精神で前進するしかない。企業システムの中にあるリスクを取らなければならない。これが経済的自由への唯一の道だ。他に道はない」
経済的な自由を得たいのならば、リスクを取る選択を、得ないのでもよければ、リスクを排除する選択を。レイ・クロックは52歳で新たなリスク選択したのである。
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