「どんな人間も個人としてみればまずまず分別があり、道理をわきまえているが、群集の一員になっ たとたん、愚かものに変わってしまう」 シラー
三陸海岸は、たびたび大きな津波の被害を被って来ました。
それは、記録にも残っていて、現地では過去に津波が押し寄せた地点に石碑が建っていて、これより下に家を建てるなと彫ってあるくらいです。
その意味では今回の津波は、決して報道されているほど想定外の災害ではなかったのです。
にもかかわらず、被災を繰り返してしまうのはなぜでしょうか。
また、原発問題では、近辺の住民は原発が危なくないということはないことを、百も承知でその周囲で仕事を営んでしまいます。
原発が東京や大阪の中心地に立地していない理由はそこにあります。人里離れたところに建設するのです。
さらに、我々は、過去にチェルノブイリやスリーマイルの事故が現実に発生していることを知っています。
私は、被災地の方々を非難するつもりでこのように書いているわけではありません。誰にでもあることなのです。
しかし、様々な選択をする際の原点として、この人間の心理は理解しておいた方がよいと思います。できるか否かは別にして。
ジャレド・ダイアモンドは人が感知している問題の解決を非合理的に怠る理由として、「心理的拒絶」をあげています。
例話として、ダムの下流に住んでいる住民の話があります。
ダムの決壊による被害のリスクに対する住民の意識を調査したそうです。
ダムより遠い地域はある程度のリスクを感じているという結果が出ているのに対して、ダム直下の住民は全く心配していないと言い切ったそうです。
毎日ダムを見上げながら正気を保つ方法は、ダムが決壊するリスクを否定するしかないと言っています。
なんとなく、理解できます。
これが「心理的拒絶」すなわち、理屈を超越した気持ちです。
さらに、ダイアモンドがあげている興味深い点は、「自分勝手」すなわち、自分にとっては合理的だが、他人からすると非道徳的な行動です。他の人々には害を及ぼしても、一部の人には利益となる人間同士の利害の衝突です。
この手の利害の衝突は誰にもわかりやすく、容易にその損害を回避できるような気がしてしまいます。しかし、自分に害がありそうな話でも、その理屈を巧妙に作られると、意外と反論しにくいものです。
たとえば、賦課方式の年金問題がそうでしょう。すでに年金を受給している受給者からすると、次世代が困ることがわかっていても、自分の利益を優先するでしょう。運用の予定利率を高く設定するというテクニックによって、あたかも持続的に維持できる(自分にも次世代にも)制度であると、集団で思い込もうとしています。その予定利率における運用が困難だと思っても、それを信じたくなるのです。
非常に巧妙な手口です。
今回の被災者への援助も同じです。国はすでに返済が困難であるとされているほどの借金を背負いながら、さらに借金で対応しようとしています。返せる自信は首相にはないでしょう。しかし、我々国民も復興を名目とされると反対しづらいものです。
さらに、「短期的な利益と長期的な利益の衝突」があげられます。
将来の利益を安く見積もることによって、目先に焦点を当てることを正当化するのです。
熱帯の珊瑚礁の周辺に住む貧しい漁師は、ダイナマイトを使用して珊瑚礁を粉々にしながら漁をするといいます。珊瑚礁を破壊してしまうと、その後に魚が寄って来なくなるわけですが、持続的に漁をするよりは、今日の魚の方が大事だということ。空腹であればそうなってしまいます。
腹の減っていない自然保護団体の人(先進国の)は、ダイナマイトの使用に反対します。
また、短期と長期という視点で言うと、国権の最高機関であり、国民の代表である代議士は、将来の国民の代表ではありません。あくまでも現在の有権者の代表なのです。従って、年金問題においても、投票権のない次世代に負担を転嫁させることによって現在の有権者から得票しようと行動します。
マンションの管理組合も同様です。近いうちに売却して転居しようと考えている人や、末が長くない老人はマンションのメンテナンスにお金を使うことをよしとしない傾向があります。一方、長く住もうと考えている居住者は、マンションの環境維持・向上に投資を厭いません。
では、このような利害の衝突をどのように回避すればよいのでしょうか。
回避するには、できるだけ衝突しないような生活のしかた。すなわちできるだけ他人から独立(孤立)した生活を選択するしかないでしょう。
しかしながら、それは、人間には難しいでしょう。社会性が生存の大きな条件である人間には
衝突し、それを調整しながら生きていく
それが社会性?
しかし、人が住めなくなったイースター島のようなことにはなりたくないですね。
(キーワード)
・這い進む常態:雑音の多い変動中に隠されたそういう緩やかな傾向
・風景健忘症:年々の変化があまりにもゆっくりとしてるので、前の風景が50年前とどう変わってきたのか、忘れてしまう
・コモンズの悲劇
・囚人のジレンマ
・居直るならず者 と 流浪するならず者
・埋没費用のコスト:すでに多額の投資をしてしまった政策を捨て去ることに対する抵抗
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